昼下がりの午後、携帯電話片手に薄紅色の髪を結んでいるぱっと見ればどこにでもいそうな少女は歩く。その目は達観しているようにも、眠たそうに見えなくも無い。
何のあてがあるわけではなく、ただ街中を歩いていく。行き交う人々の他愛のない会話や、どこの街でも見ることの出来るショッピングモールの風景。
目新しいものがあるわけでもない、興味を引かれるものがあるわけでもなく、ただ歩く。時折思い出したように携帯電話を取り出しカメラを作動させるが、撮りたいものはそこにはなかった。
(……つまらない)
舗装されている道に視線を落とし、薄紅色の髪の少女、アーニャは呟く。
見た目こそ可憐だが、中身は皇帝直属のナイトオブラウンズのナンバー6アーニャ・アールストレイム卿。つい先日同じくラウンズである7、柩木スザクと3、ジノ・ヴァインベルグと共にエリア11へと赴任してきた。詳しい任務内容はブログの更新に集中しておりあまり覚えては居ないが、なんとなくは理解していたので問題は無い。
アーニャとしては任務も大事だが、このエリア11が何を撮らせてくれるかの方が重要だった。7であるスザクは任務としてかつて在籍していたアッシュフォード学園へ戻っており、ジノは庶民の生活が楽しそうだと勝手に何処かへと行ってしまった。
元々一人でいることが苦ではないアーニャもまた、街へと繰り出し興味を引かれるものを写そうと思ったが、生憎彼女の心を惹くものは、ここにはないようだった。
「やっぱり、つまらない……」
呟いて、公園のベンチに腰掛ける。穏やかな風景がアーニャに何の感慨も残さずに通り過ぎていく。中の良さそうなブリタニア人の親子連れ、隠れるように公園を抜けていくイレブン。全てが無感動の世界でもう一度つまらない、そう呟いたアーニャが政庁へと戻ろうと立ち上がった時、銀とも灰ともつかない色が視界を横切っていく。
気が付いたときには携帯を構え、銀灰を撮っていた。撮られた当人は音に気づかず、アーニャの存在に気づくことも無く足を進め、やがてその姿を消した。視界から消えたのを確認し、画面に映る銀灰に視線を落とす。年は、多分自分と同じか、一つか二つ上。特筆することもないようにも思えたが何故かアーニャの興味を引いた。
「……きれい」
ぽつり、と呟いて携帯の中の名前も知らない銀灰の髪の少年に向かい、一人微笑んだ。
「楽しそうなの、見つけた」
液晶の銀灰の少年の名がライと言い、ナンバー7であるスザクと同等のナイトメアフレーム操縦技術と、作戦指揮に秀でている事をアーニャが知るのは、もう少し先の事。

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