ここ最近、急に騒がしくなった気がする。
が勤めるカフェは、知る人ぞ知る隠れ家的な店のはずで、物静かなマスターの淹れる美味しいコーヒー店。の、はずだった。
「く~ッ、うまい!」
何故か常連になってしまっている虎徹が騒がしいのはいつものこととして、今日急に騒がしくなったのは、その隣に座る男のせいだろう。
「確かに美味しいですね。でも虎徹さん、こんなカフェいつ見つけたんです?」
薄い金色の癖のある肩まで届くか届かないかの髪に、緑色の瞳。赤と白のライダースジャケットに身を包み、足の長さを強調するようなパンツ。モデルのような体型にいつものは静かなはずの店内のざわめきが収まらない。
青年が整った顔立ちをしているだけならこうはならない。原因は、この男が今をときめくヒーロー、バーナビー・ブルックス・Jrその人だからに他ならなかった。
(なんでうちの店に人気ヒーローが来てるの!? って言うか虎徹さんと知り合い?)
すっかり虎徹の指定席となりつつあるカウンターの向こう側でコーヒーカップを洗いながら口には出せない疑問を頭の中で何度も反芻する。あまり流行りものなどには聡い方ではない
ですらテレビで見ない日は無いぐらいバーナビーの事は知っている。ヒーローとしては異例の顔と本名をメディアに流しており、そのルックスと活躍でシュテルンビルトで今一番有名な人間と言ってもいい。
「
、おかわりくれ。偶然だよ偶然、散歩してていい香りがするな~と思って、こうフラフラっとな」
「はーい」
そんな有名人が隣にいると言うのに虎徹は普段と何も変わらない様子で空になったカップをカウンターに置き、言う。
出来るだけバーナビーの方を見ないようにしながら返事をし、空のカップを流しに置き伝票に追加の文字を加えるとマスターの前に置く。
「すみません、僕にもお願いできますか。貴方にコーヒーの香りの良し悪しが分かるとも思えないんですけど」
「あ、は、はい」
一度マスターの前に置いたメモを戻し、更に追加の文字を乗せ改めてマスターの前に置き直す。出来るだけ普段通りに、いつも通りに接しているつもりではあったが、虎徹には気づかれてしまっていたらしい。
がいつもと違うことに。
「ひっでぇなぁバニーは。なあ、
?」
「は、へ?」
「おいおいおい、どうしたんだよ。らしくないじゃないか。いつものノリはどこいった」
「いつものノリって、そんな……」
「はっは~ん」
「!!」
虎徹の目が細くなり、口元に人の悪そうな笑みが浮かぶ。まずい、これは完全に見抜かれている。
「あ~、そういやちゃんと紹介してなかったな。
、こいつはバニー。まあ知ってるとは思うけどTIGER&BUNNYのバニーの方な」
「なんですかその紹介……。自己紹介ぐらい、自分でちゃんと出来ますよ。初めまして、バニーじゃなくて、バーナビーです」
主にメディア向けに使われる営業スマイルを
へと向ける。その笑顔に引き込まれそうになるが、ぎりぎりの所で耐えなんとか店で使う笑顔で返すが、若干口元が引きつってしまう。そしてその引きつった笑顔のまま首を動かし、虎徹の方を向くと彼にだけ聞こえる小さな声で非難の声を上げた。
(なんで連れて来たんですか!)
(なんでって……お前のために)
(有名人連れてくる所のどこが私のためなの!?)
虎徹が言っている意味が全く分からない。何がどうなれば自分のためにこのスーパーヒーローを連れてくることになるのか。店の宣伝と考えても落ち着いた雰囲気を売りにしているこのカフェとしては騒がれるのはあまり喜ばしい方法ではないのは虎徹も分かっているはずなのだが。
「バニー。
な、NEXTなんだわ。しかも最近力が発現したばっかりでな」
「ちょ!」
「へえ、そうなんですか」
まさか同じNEXTだからとかそんな理由で連れて来たのだろうか。

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