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warehouse 赴くままに乙女ゲーやハマったゲーム等のSSを期間限定で書き綴る予定です(゜Д゜)

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LOSTCOLORS―ラウンズ編05―

書くことがもう無いよ!


>>目次








ナイトオブラウンズの頂点、ナイトオブワン、ビスマルク・ヴァルトシュタイン程騎士と言う言葉が似合う男はそうはいない。清廉潔白、皇帝に絶対の忠誠を誓う彼に憧れる軍人は少なくは無い。
このビスマルク、表向きは沈着冷静を装ってはいるが内心ではいくつかの問題を抱えている。ナイトオブラウンズの筆頭である彼の号令に耳を貸さないものはそう居ないが、中にはイレギュラーがいる。今現在彼が頭を悩ませているのはイレギュラーナンバー、ナイトオブサーティン、ライのことだろう。彼のナイトオブラウンズ就任は、実はビスマルクにも知らされていなかった。突然皇帝に呼び出され、居並ぶラウンズの前でこの男を迎えると言われただけで、本当に何も知らされていなかったのだ。皇帝の決めたことならば、と一時は己を納得させようとしたビスマルクだがライと言う男には不可解な部分が多すぎた。
まず、大前提として何者かが分からない。皇帝自ら推挙するには理由があるのだろうがそれは明かされていないし、ビスマルクが尋ねても皇帝は答えようとはしなかった。そして次、ライのナイトメア開発専属チームとして派遣されている人々。ナイトオブラウンズにはそれぞれ専属のチームがつくのは当たり前なのだが、彼に付く専属チームの雰囲気は他のどことも違う。狂気染みたものを感じずには得ない。それと同じく彼の乗るナイトメアフレームにも謎が多い。元は第三皇子クロヴィス管轄で現在は第二皇子シュナイゼルへと移行された研究所が作り上げたらしいのだが、これがどうにも胡散臭い。神経電位接続なるものを使用しているらしく、ライのナイトメアには操縦桿や機器類が一切搭載されていないのだ。それでもライのナイトメアは通常の、いや通常以上の力を発揮し、その実力はビスマルク自身彼の御前試合で目の当たりにしていた。

(……だが、解せん)

右目をゆっくりと開き、ビスマルクは考える。
皇帝陛下の采配に異を唱える事は無いが、それでもあのライと言う男には謎が多すぎる。力量などは申し分ないのだが、どこか全てを悟っているような諦めているような空気すら漂わせる姿は少年の姿をしながら歴戦を渡り歩いてきた老将の雰囲気すら感じている。
縫い付けられている左目の上に指を辿らせながら分かっている事実の方が少ないナイトオブサーティンの事を考え続ける。

(空いているラウンズの席はあるというのに、陛下は何故新たなるナンバーをお作りになったのだ)

本来十二席あるナイトオブラウンズの席は全て埋まっていない。ツー、フォー、ファイブ、エイト、イレヴンと五席空いているにも関わらず皇帝はライにサーティンの席を新たに作りそこに座らせた。サーティンとは、あまりいい数字では無いとビスマルクは記憶している。むしろ忌み数として知られていた。そんな席をわざわざ作り、そこに騎士を置く。
分からない。
皇帝陛下が何を考えているのか。
分からない。
ライが何を思っているのか。

(デュラハン、裏切りの騎士……)

ライの二つ名として上げられるデュラハンはルキアーノとの御前試合の時、そして裏切りの騎士とはナンバーから来ているが、ビスマルクとしては後者である裏切りの騎士の方が気になっていた。迷信だと思いつつもあの男ならばと引っかかる点もある。

「ヴァルトシュタイン卿、珍しいなこんな所で」
「……ノネットか」

考え事をしながら歩いていた為気づかなかったが、足は本宮殿から外れ、イルバル宮へと進んでいた。丁度報告書を秘書官ベアトリスに出したところなのか、やや疲れた顔をしたナイトオブナイン、ノネット・エニアグラムに声を掛けられやっと自分の足が違う方へ向いていたことを知る。

「らしくないな、考え事か?」

快活に言い、ノネットは頬にかかる編みこんだ髪を指で払いながらにやりと紫色の口紅の塗られた厚みのある唇を吊り上げて人の悪そうな笑みを浮かべる。

「それはそちらも同じだろう。ベアトリスに手ひどくやられたようだな」
「全くあいつの顔を見るたびに死にたくなる。私が報告書を書くのを苦手なのを知って言ってくるからなぁ。正直たまらん。これで提出し直し四回目だぞ」
「そう言うな。ベアトリスは優秀な秘書官なのはお前自身が一番知っているだろう」
「知りすぎている、とも言えるな」

紫色のマントから両腕を出し、大仰に肩をすくめて見せるノネットにビスマルクは微かにだが笑みを浮かべ両腕を組む。

「何を考えてるか、当ててやろうか?」
「分かるのか?」
「なぁに、私とてナイトオブラウンズの端くれ、考えていそうなことぐらい分かるさ。うーん……分かった、ナイトオブサーティンの事だろう」
「! 驚いたな……」
「もしかして当たったのか? おお、私の勘もなかなかだな」

腰に手を当て声を上げノネットが笑う。ビスマルクと同じくノネットも、いやライ本人以外が多かれ少なかれナイトオブサーティンの事を気にしているのだ。ノネットはビスマルク程重く考えてはおらず、あんなに細いのにちゃんと食べてるのかとか、暗いけど友達はいるんだろうかとかそう言う方向で気になっていたのだが。

「気になることがあるなら本人に聞くのが一番手っ取り早いと思うがな。あいつは暗いし、何考えてるか分からない所も多いが聞けばちゃんと答えるぞ?」
「……話したのか、ナイトオブサーティンと」
「あまりに細いんでな、気になってちゃんと食事をしてるのかと思って聞いてみたんだ。そしたらあいつ、自分は燃費が悪いからあんまり食べなくても大丈夫なんて言う」
「それで?」
「ん?」
「それからどうしたんだ、お前は」
「ああ、そんなわけないから首根っこ捕まえて無理矢理食事をさせた。私のおごりで」
「…………」

さらりと言うが、それはかなりすごいことなのでは無いかとビスマルクは思う。恐らくこんな調子でライに絡んでいけるのはノネットとジノぐらいではないだろうか。

「まあ、変わった人間であるのは確かだな。私達が言える台詞では無いが」

腰に下げている銃をいじりながらノネットは苦笑いを浮かべビスマルクの方を見る。自分が変人の類に入る事は承知しているらしい。

「成るほど、参考になった」
「役に立てて光栄だ。さてと、私は報告書を直してくるかな。今からやったら日が暮れそうだがな」

話すだけ話してさっさと切り上げる。相変わらず気ままな性格のノネットは突き返された報告書を振り回しながら自分の執務室へと戻り、ビスマルクは再び一人になる。

「気になるのならば聞けばいい、か。確かに一理ある」

誰も居なくなったイルバル宮へと続く廊下の真ん中で、ビスマルクは一人呟いた。



******



二人だった追っ手が、三人に増えた。
先程ルキアーノに絡まれていたアーニャを助けた、基アーニャに殴られそうになっていたルキアーノを助けたライだったが、ジノ中心のライへの攻めは止まらない。それどころか何を考えているのかアーニャまで加わっている。
流石に本宮殿を走るわけには行かず、大股でそれもかなりの早足でなんとか撒こうと黒いブーツの踵を鳴らし、同じく黒いマントをはためかせ大理石で出来た廊下を歩く。皇帝の威厳が最も降り注いでいると言われている本宮殿で鬼ごっこにも似たことをしているのは、自分達だけだろう。ライとしてはただ放っておいて欲しいだけであるのだが、ジノが、アーニャがそれを許さない。本来ライが自分の知っているライであるか確認したがっていたスザクですら巻き込まれている形になっていた。
いっそのこと自分のメンテナンスを行っている研究所に逃げ込もうとも思ったが、それでもジノは諦めないだろう。下手をすれば研究所をラウンズ三人が取り囲む事態にもなりかねない。
さて、どうしたものか。
考えながらも足を進めるスピードは変わらず、いっそのこと町に出てしまおうかと考えている時、こちらに向かってくる大きな影が見えた。
白い騎士服に、白のマント。灰色がかった黒髪に縫い付けられた左目。皇帝やシュナイゼルに続きブリタニア全土で顔の知られている、ナイトオブワン、ビスマルクだ。

「ナイトオブサーティン」
「……ヴァルトシュタイン卿」

あまり顔を合わせたくない人物に会ってしまった。
現在ライの中で顔を合わせたくない人物第二位に位置するナイトオブワンにこんな所で会ってしまうとは。今日ほど自分の運の無さを嘆いた日は無いかもしれない。
ちなみに、現在の一位はスザクだ。

「失礼、少し急いでいるのでこれで失礼する」
「待て。ナイトオブサーティン」

挨拶もそこそこに後ろから迫ってくるジノ、スザク、アーニャを振り切ろうと急ぐライの足をビスマルクは止める。そして開いている右目でじ、っとライの青い瞳を見下ろす。
まただ、またこの男は探るような目で自分を見ている。
元々イレギュラーナンバーラウンズである自分を好意的に見ている人間などいないと思っていたが、ビスマルクの目はルキアーノ等とは違い、存在自体を疑うような目でいつもライを見てくる。まるで、存在しない人間がそこにいるかのように。
それはあながち間違いではないのだが、間違いでは無いからこそライはこの目が苦手だった。

「……何か」

筆頭騎士に呼び止められては足を止めないわけには行かず、先程まで忙しなく動かしていた足を閉じ腰の横に黒い手袋で包まれた拳を置きビスマルクを見上げる。

「一度聞きたいと思っていた事がある。お前は何の功績を挙げ皇帝陛下から御推挙頂いたのだ」
「陛下には尋ねられましたか?」
「……答えぬ、そうおっしゃられた」
「皇帝陛下がそうおっしゃたのならば、そうなのでしょう。陛下が答えられない事を、僕が答えられるとでも?」
「ならば質問を変えよう、何故陛下は空席であるナンバーにお前を据えず、新たなナンバーを作った。陛下のお答えではなく、お前の意見が聞きたい」

推挙云々は、元々答えなど求めてなどいない。こう答えてくる事は想像できた。だから方向を変えて『ライ自身の意見』として尋ねてみる。
青い瞳に一瞬だが、光が篭った。

「ヴァルトシュタイン卿、13と言う数字が何を示すかご存知ですか」
「……良くない数字だ」
「その通りです。タロットカードの13番目は死神、北欧神話において13とは招かれざる客、トリックスターの数字。そして裏切り者が背負う数字でもあります。陛下はこの数字が僕に一番合うと考えられた、だから13と言う数字を僕に与えたのだと思います」
「裏切り、死神、トリックスター。本当にお前にその素質があるのならば、ブリタニアの騎士としてこのまま見過ごすわけにはいかないが」
「ご自由に。ですが僕もイレギュラーナンバーといえナイトオブラウンズ、陛下に『忠誠』を誓っている事に違いはありません。誓っていなければ、いくら陛下ご自身が推挙されようとこんな所にいるはずがないでしょう」

まるで挑発するようなライの口調にビスマルクの険しい顔つきが一層険しくなる。
ノネットは言った、気になる事があるのならば聞いてみろと。変わっているが、ちゃんと答えると。確かにちゃんと答えはしたが、それはビスマルクが抱える憂いごとを増やす結果になったのではないか。
陛下の真意が分からない。

「ご満足いただけましたか、ヴァルトシュタイン卿」
「満足、だが不満足でもある。ますますお前と言う存在を疑わなければならんからな」
「僕の存在を疑っているのは貴方だけではありません。ナイトオブセブン、彼もまた僕の存在を疑う一人です」
「ほう。あのナンバーズ出身のナイトオブセブンが?」

これは意外だった。あのナイトオブセブン、元第三皇女ユーフェミアの騎士でもあったイレヴン出身の柩木スザクがビスマルクと同じくライの存在を疑っている。ラウンズ入りして間もないというのに大した慧眼の持ち主では無いか、と顎をさすり唸っているビスマルクを横目にライは視線を外へとずらす。

(……ヴァルトシュタイン卿とは違う意味での『疑い』だがな。まあ、勘違いでスザクの評価が上がるならそれでも構わないが)

決して口には出せない、表には出してはいけない感情を内心で呟き、風に乗って聞こえてくるジノの大きな声と慌てているスザクの声。そして風自体にかき消されてしまっているアーニャの声を遠くに聞きながらライは一度ビスマルクの方を見、もう行っても構わないかと目だけで尋ねる。

「いらぬ時間を取らせたな、ナイトオブサーティン」
「いいえ。こんな答えで貴方が聞きたかった事の半分も答えられていませんので。では、僕はこれで」
「ナイトオブサーティン!」
「……まだ何か」
「お前が陛下に忠誠を誓っていると言うのならば、信じよう。だがもし、少しでも怪しい素振りを見せたときは……」

ビスマルクの瞳に、殺気めいたものが浮かぶのを青い瞳で捉えたまま、ライはゆっくりと目を細める。

「陛下から頂いたエクスカリバーで斬りますか、首無し騎士を」
「…………」

振り向いたその瞳の奥に、皇帝と同じ光が見えた気がした。

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