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warehouse 赴くままに乙女ゲーやハマったゲーム等のSSを期間限定で書き綴る予定です(゜Д゜)

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お昼寝

>>ときメモGS葉月珪目次


2002年から書き始めたGS1の葉月SS。確か発売日に書いた記憶があります。
どんだけ暇だったんだ、私(´ω`)

 はばたき学園入学から丸一年、学外から来てからこの雰囲気に溶け込むのになんだかんだで一年かかってしまった。鷹谷の周りには何故か個性の強い人々が集 まってしまったが、それでもそれなりに楽しい学園生活と言うものを謳歌していた。
個性的な生徒の間でも一番仲がいいのが現役高校生モデルにして成績優秀、スポーツ万能の葉月珪。顔もいい、成績もスポーツも出来る葉月だが学校内ではあ まり人気は無い。藤井奈津実に言わせれば彼は『テング』らしい。鷹谷も最初は誤解していたが、彼はテングどころか状況判断すら出来ていなかった。モデルも 元は代役として始めたもの。使っている方にしてみれば立派な雑誌モデルとして使っているつもりだが当人はまだ代役の延長でやっている気が多大にあるらし い。


「…葉月くん、私思うにファンの子がこんな所でお昼寝なんてしてるとこ見たら連れて行かれちゃうと思うんだけどなぁ」


体育館裏の死角にある小さな庭に、葉月珪が子猫達に囲まれ実に気持ちよさそうに眠っている。ファンが見れば垂涎ものの光景だが学校内ではあまり騒がれな いのは葉月の性格を皆が誤解しているからだろう。
眠っている葉月の隣に腰を下ろし、膝を抱える。空を見ればなんとも昼寝日和な暖かい太陽。夏を迎える前四月の太陽が葉月を眠りへと誘ったのだろう。もっ とも葉月の場合趣味が昼寝なので年がら年中眠って良そうではあるが。


(あ、意外と寝顔が幼いんだ、葉月くん)


クールで通っている葉月も眠ると年齢が出る。幼い寝顔は、男に対しては失礼かもしれないが可愛かった。葉月の元で眠っている子猫が一匹、目を覚まして鷹 谷の姿を見つけて小さく鳴く。
子猫の姿を見て、鷹谷が唇に人差し指を立てる。


「しー。葉月くん、まだ寝てるから、静かにしてようね、李子」


子猫の名前を言った後、照れる。葉月はこの子猫にこともあろうに鷹谷の名前を付けた。見つけた時、葉月はなんともバツの悪そうな顔をしていた。でもそれ だけ思われていると言うことが鷹谷には分かり、嬉しかった。自分と同じ名前の子猫の名前を呼ぶのは恥ずかしいが。
立てていた膝を崩すと待っていたとばかりに子猫の李子が膝に乗り、再び眠ってしまう。


「……可愛い」


丸くなって眠る子猫に笑みを零す。時間がゆっくりと流れていくのを体で感じ、つい自分も眠ってしまいそうになる。が、そう言うわけにもいかない。あと五 分もすれば午後の授業が始まる。鷹谷は葉月を起こしに来たのであって、昼寝をしに来たわけではないのだ。しかも二人の暮らすの担任は氷室。氷室学級と呼ば れるやや浮き気味のクラスに入ってしまっている。分かり合えればいい先生であると鷹谷は思っているが、藤井はいつも鷹谷の意見を


「それはアンタの勘違い!」

と一蹴する。だからと言って氷室に黒板消しのトラップを仕掛けるのはどうかと思うが。


眠ってはいけないと想いながらもこの陽気と、地面一杯に広がる芝生は眠りを誘っていた。葉月でなくともこれは眠ってしまいそうになる。緑の風が鷹谷の体 を通り抜けて行く。草の匂いを含んだ風は、新緑を語る。


「……ん」


隣で眠る葉月が、みじろきをする。起こすことも無く起きるかな、と想い開く瞳に一番に写ろうと顔を覗き込む。
閉じた瞳が開かれ静かな目が、鷹谷の姿を見つけた。


「……李子?」


囁くような声で名前を呼ばれ、微笑みで答えると、雑誌では見ない微笑みでそれに答える。


「おはよ、葉月くん。もうすぐ予鈴鳴るよ?起きないと」

「……まだ、眠い……」

「んー、それは分かるんだけど次の授業数学だし。ね、起きよう?授業中寝てもいいし、とりあえず授業には出ようよ」


些か問題的な言葉が含まれているような気がしないでもないが、鷹谷の説得に葉月は頷き、周りで眠る猫達を起こさないように体を起こした。二分程微動だに しない後、やっと視線を動かし周りの景色を見る。まさか自分が寝てしまった場所すら忘れてしまったと言うことは無いだろう。
視線を動かした後、鷹谷の膝で気持ちよさそうに眠る李子を見つける。


「……そいつ、ずっとそこに?」

「んん、今さっき乗って来たの」

「ふーん……。なんか、うらやましい」

「なにが?」

「お前の……膝の上」

「あはははっ、じゃあ今度葉月くんにもしてあげようか?膝枕」

「……今がいい」

「え」

「今……が、いい」

「は、葉月くん!?」


膝の上の李子をそっと下ろし、頭を撫でた後、そのまま頭を乗せると思ったが、違った。
葉月が近づいて来たと思うとそのまま抱きすくめられる。誰がいるか分からない学校でなかなか大胆なことだが抱き締められた本人は動揺を思い切り顔に出し た。葉月珪、行動が予測できない。


「はづ、葉月くん、膝枕じゃないの?!」

「……抱き枕がいい。」

「抱き?!」

「お前、抱いて寝る……」


聞きようによってはんなり危ない発言をして、抱き締めたまま再び芝生に倒れる。猫達は二人を気遣ってか、恋人同士のじゃれあいなど猫も食わないのか早々 と退散してしまっている。分かっているのか、分かっていないのか。
きつく抱き締められてはいないのに、腕はびくともせずきっちり抱き枕にされている。耳の横で葉月の寝息が聞こえてくる。


「寝ちゃったのー?!」


真っ青な空を見上げながらいくらもがいても、声を出しても葉月は一向に目覚めようとしない。何とか抜け出そうとしている間に予鈴は鳴り、賑やかだった校 舎が一斉に静かになる。授業が始まった証拠だ。しかし最も恐るべき学級に所属する二人は揃って遅刻。今行けば確実に説教、今行かなくても確実に説教。


「は~づ~き~く~ん~」


期待もせずに声をかけるが帰ってくるのは寝息だけ。


「も~」


諦めの言葉を吐いて、腕を掴むのを止め体を葉月に預けた。いつ頃から昼寝をしていたのか、葉月の髪からは風と同じ緑の匂いがした。


「こんな所誰かに見られたら大変だよ」


確かにどう考えても恋人同士の睦み合いにしか見えない。教師や生徒に見られたらなんと言われるだろうか。
しかし、春の陽気と心地いい人の体温には勝てなかった。
うつらうつらとついに鷹谷の目まで眠りの体勢に入り始める。春眠暁を覚えずの言葉は、嘘では無いらしい。


「ん……寝たら、だめ……なんだけど……」


自分で自分を叱りながらも、風と、芝生の暖かさと、葉月の暖かさの方が勝り、必死で開けていた瞳もやがて閉じてしまう。追い打ちをかけるように葉月の顔 が鷹谷の頬にすり寄せられる。葉月の柔らかい髪を感じて、ついに鷹谷は落ちた。


春の午後、芝生に二人が体を寄せ合って眠る。猫達も再び葉月達の周りに集まり沿うようにして眠った。
午後の授業、葉月珪、鷹谷李子、欠席。無論この二人の欠席が、後で色々な噂を呼んだのは言うまでもない。そして、眠る二人達を見つけた唯一の人物は


「青春を謳歌しているようでよかった」


天之橋一鶴だけだった。
はばたき学園校則、青春を謳歌することを、二人は見事に守って見せた。


2002.0623

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